【第四章:静かな崩壊──軍団長の心が折れてく音】(第十六話)パチンコ依存症が消えた日、勝てるのに心が満たされなくなった理由

物語

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2022年の終わりごろ。
気づいた時には、僕の中から“打ちたい欲”が消えていました。

かつて依存症だった頃は、
お金があってもなくても、時間があってもなくても、
打たずにはいられない日々でした。

でもこの頃の僕は──
軍資金があって、時間もあって、環境も整っているのに、
目の前の台に手が伸びない自分がいたんです。

静かで、違和感だけが残る感覚でした。

■ スマスロ時代の幕開けと、僕の冷めた心

2022年は業界の転換期でした。
6.5号機からスマスロへ。
一撃性能は大きく上がり、ホール内もざわついていた時期。

「荒い時代が来たな…」
そんな空気を肌で感じながらも、僕の心は動きませんでした。

本来なら楽しめるはずの新台も、
“仕様”を理解した瞬間に興味の熱が消えてしまう。

台を楽しむ前に、台を攻略してしまう。

そんなクセが完全に染み付いていました。

■ 軍団長として“完成”してしまった僕

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軍団としての立ち回りは、2022年でほぼ完成形になっていました。

・朝の動き
・打ち子配置
・動線の最適化
・データの蓄積と判断
・全台系・末尾・並びの特定

すべてがシステム化され、
僕は“最初と最後の判断”さえすれば勝てる環境が整っていた。

勝つことが当たり前で、
勝ち方は身体に染みついていた。

だけど──
勝っても嬉しくない。負けても悔しくない。
そう感じる瞬間が増えていきました。

■ 期待値が“義務”になった日

昔の僕は、演出1つに笑えて、
レア役を引くだけで心が躍っていました。

でも今は違う。

台に向かうと同時に、
脳内では「最善かどうか」のチェックが自動で始まる。

・この台は触るべきか
・期待値はいくらか
・判別は何ゲームまでするか
・移動リスクは?
・取りこぼしは?

その判断だけが、淡々と積み上がる。

いつの間にか、僕は“ワクワクするため”ではなく
“間違えないため”に台に向かっていました。

攻略が進めば進むほど、
遊技としての感情は失われていく。

それは勝ち続けた人間だけが味わう、
静かな“喪失”でした。

■ 感情の死──フリーズを引いても無表情

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フリーズを引いても心が跳ねない。
設定6で負けても何も思わない。

それどころか、
期待値のない台を触ると罪悪感に近いものすら感じる。

依存症が治る瞬間というのは、
もっと劇的なものだと思っていました。

けれど実際は──
勝ち方を理解しすぎた結果、自然に熱が消えていく。
それだけでした。

依存は治った。

でも同時に、
パチスロを“楽しむ心”も一緒に死んでいました。

■ 勝っているのに、どうしてか満たされない

2022年の後半。
内容も結果も順調で、収支も安定していました。

誰から見ても「成功」にしか見えないはずなのに、
心のどこかはずっと静かで、冷たくて。

気がつくと、台に向かいながら
こんな言葉がよぎるようになりました。

「俺は…なんのために稼働しているんだろう?」

勝利の喜びより、
“義務感”の方が強くなっていた。

それに気づいた瞬間、
僕の中で小さなブレーキが鳴り始めました。

■ 静かな崩壊の始まり

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2022年は、軍団が最も完成した年であり、
同時に──僕の心が静かに崩れ始めた年でした。

依存症は自然と消えた。
勝ち続ける力も身についた。
環境も、人も、結果も整っていた。

なのに、
胸の奥だけは満たされない。

この感覚の正体を知るには、
もう少しだけ時間が必要でした。

■ 次回、第十七話へ

第四章では、
僕の中で何が起きていたのか──
その“崩壊の音”に少しずつ触れていきます。

次回は、
勝てるのに心が戻らないまま、成績だけ伸びていく奇妙な日々
その先に訪れた“転機”について書いていきます。

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