【第四章:静かな崩壊──軍団長の心が折れていく音】(第十九話)限界に触れた朝──僕が“休止”という選択をした理由

物語

2023年9月。
夏の熱気がようやく薄れ始めた頃でした。

収支だけ見れば、プラスではありました。
けれど以前のような勢いも、積み上がっていく感覚もなく、
ただ毎日を“こなしているだけ”になっていたと思います。

そしてある朝、
僕はとうとう、心の限界に触れました。

🐾

■ 朝一のホールで、初めて“身体が動かない”感覚を味わう

開店直前。
いつものように並び、いつものように入店する。
全員の動きも問題なく、配置も綺麗に決まっていく。

ただ一つだけ──
僕だけが、明らかにおかしい。

台に座った瞬間、胸の奥に重い石が沈むような違和感が走りました。

「……なんか、今日は無理かもしれない」

自分でも驚くほど弱々しい声でした。

スロットの演出すら“遠く”に感じ、
台のランプを見つめても、何の感情も湧かない。

ただ、

「これ以上、前に進めない」

という感覚だけが、はっきりしていました。

■ メンバーは責めなかった。それが逆につらかった

勇気を振り絞り、
メンバーに「今日は少し休みたい」と伝えたとき。

誰も不満を言いませんでした。

「大丈夫ですよ、無理しないでください」
「たまには休みましょう」

優しい言葉ばかりでした。

責められたわけでもないのに、
なぜか胸が痛む。

──僕が壊れたら、この軍団はどうなるんだろう。

そんな不安だけが頭を巡っていました。

■ 店を出た帰り道、世界がやけに静かに見えた

外に出ると、さっきまでの喧騒が嘘みたいに静かでした。

歩いているのに、
どこに向かっているのかわからない。

陽射しは明るいのに、心だけがどんどん暗く沈んでいく。

🐾

「あぁ……本当に限界だったんだ」

そう思った瞬間、
急に肩の力が抜けました。

もう、無理だったんだと気づきました。

■ そして、初めて“休止”という選択をする

その日の夕方、
僕は軍団のグループにメッセージを送りました。

「しばらく稼働を休止したいと思っています」

指先が震えました。
軍団長として、絶対に言わないと思っていた言葉でした。

けれど返ってきたのは、
温かい言葉ばかりでした。

「了解です!」
「無理しないでくださいね」

優しさが逆に胸に突き刺さる。

■ 10月・11月──現場に戻れないまま、遠隔だけの日々

休止を決めてからの2ヶ月。
僕は一度もホールに立つことができませんでした。

最低限の“遠隔の管理”だけは続けていました。
けれど心は戻らず、
僕だけ時間が止まったような気がしていました。

軍団が動いていても、
僕だけが暗闇にいるような感覚でした。

■ そして12月──メンバーから「戻ってきてほしい」と言われた

年末が近づくにつれ、
メンバーの負担が少しずつ大きくなっていきました。

遠隔だけでは限界がある。
現場の判断が必要な場面も増えていく。

ある日、メンバーから言われました。

「アルさん、現場に戻ってきてほしいです。
もう一度だけ、一緒にやってほしいです。」

その言葉を聞いたとき、
胸の奥がぎゅっと締めつけられました。

戻りたくなかった。
もうホールという場所自体がつらかった。

でも、
僕が戻らなければ、この人たちが困る。

その現実だけが、僕を動かしました。

僕は、静かに頷きました。

🐾

こうして僕は、
壊れた心を抱えたまま、
年末のホールに戻っていくことになります。

⸻次回、第二十話

「12月の復帰──戻りたくなかった場所に立った日」

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